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例えばリーディングの英文提示にしても、一度に提示する方法と、チャンク読みと呼ばれる方法を比較したりした。チャンク読みとは、英文が文頭から句ごとに提示され、一文が提示し終わると画面から消える提示方法である。その狙いは、読みの苦手な学生がよく行う戻り読みを防ぎ、文頭からの理解を促進するというものであった。 また、そのことによりリスニングに効果が転移することを期待した。リスニングの解答フィードバックなどについても、聞かせる回数、スクリプトや訳の提示、文頭3語だけを提示させ再び聞かせるなど、さまざまな実験を行った。
また、プログラム側の工夫だけでなく、オーバーアチーバーとアンダーアチーバーの研究も行った。つまり、平均以上に伸びる者と伸びない者のプログラムに対する取り組みがどのように異なるかをアンケートなどを通じて調査、分析した。その違いを把握することにより、受講者に、より効果的な取り組みを行わせることができ、プログラムの効果を最大限に引き出せると考えたからである。
そして、事前事後には正式なTOEICを採用することとし、日時を決めて受講者に団体受験という形でプログラム前とプログラム後に受験させた。正式なものを使った理由は、問題がより適切であることと、3年生や4年生にとってはその成績が就職などに利用できるからであった。また、プログラム効果を測定するにあたって、受講者と非受講者の比較なども行った。就職などに必要という理由からTOEICだけを受験したいという学生が多く存在したので、彼らにもプログラム受講者と同じように2回のTOEICを受験させた。そして、プログラム受講者とTOEIC試験のみの受験者とのスコアを比較し、プログラムによる学習効果とTOEICテストに慣れることによる練習効果との差も明らかにした。さらに、プログラム受講者にはTOEIC受験翌日、同じテストを時間無制限として、もう一度受験させることにより、プログラムが学生の知識と処理能力のいずれをより向上させているかなども分析した。また、英文のリーダビリティーなど、各問題の難易度と、受講者の正解率の推移から本学の学生にとって最も適当なレベルの問題を模索した。
こういった取り組みの結果、インテンシブプログラムは受講者の英語力を確実に伸ばすことに成功した。本学学生のTOEIC平均点である550点から、2ヶ月プログラムを受講すると、約120点伸びる。1ヶ月版のプログラムであれば、70点程度向上する。もちろん、400点くらいから始めればもう少し伸びて150点以上は伸びる。今までもっとも伸びた者は情報科学部の学生で、286点も伸び、500点台から一挙に800点台になった。ちなみに700点台以上になれば、履歴書に書けるレベルである。また、いくつかの県では、TOEICの得点が750以上であれば、教員採用試験から英語の試験が免除される。 |
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このように開発されたインテンシブが正式の英語授業となる。ただし、一般の英語授業に較べてかなり過酷である。ネットワークで配信される教材を毎日1時間から1時間半、月から金まで2ヶ月間学習するというものである。しかし、単位数は「CALL英語集中」にしても「CALL英語総合」にしても、他の英語科目と同様1単位である。通常の半期授業が90分×15回で22.5時間であるのに対し、インテンシブは90分×週5回×8週間で60時間にもなる。要するに、英語3科目分を2ヶ月で一挙に学習する計算になる。ただし、決まった授業時間はなく、各自好きな時に語学センターに来て、教材を消化していく。教師に質問がある場合は、メール等で連絡をする。
このインテンシブプログラムは、袋町小学校に併設されているまちづくり市民交流プラザでも、仕事帰りの市民が受講できるよう、この10月から本学とネットワーク接続することになっている。また、将来的には常時接続のインターネット回線を通じて、市民が自宅からアクセスし学習できるようにする予定である。
さて、インテンシブプログラムを実験段階から、授業や市民交流プラザなどで使う実用段階に移行させるには、膨大な教材を作成するというもう一つ大きな課題があった。著作権の問題から、学習システムだけでなく教材自体も自作する必要があったのである。このインテンシブは膨大な問題量を必要とする。例えば、2ヶ月のプログラムを行うのに、リスニング問題が2000問、リーディング問題が200問程度必要なのである。それらをたった1回のプログラムで消費してしまう。これらの教材をいかに開発していったかについては、また紙面をあらためて述べたいと思う。また、現在、発表技能、つまりライティング、スピーキングを学習するプログラムの開発を考えており、このことについてもいつか報告したい。
(注)青木信之・渡辺智恵 「CALLを利用した英語集中訓練プログラム:その実施と結果の分析」『広島国際研究』第6巻、131-160、2000. |
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発行日 2002年5月31日
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